パワハラ防止法は2020年6月に施行され、大企業のみ義務として適用されていました。
そして、今までは努力義務だった中小企業も2022年4月から義務化されます。
この法律に罰則規定はありませんが、だからといって対策を怠ると社会的イメージが悪くなることがあります。
急いで対策が必要です。
パワハラ防止法基礎知識
正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに社員の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」と言い、「労働施策総合推進法」と略されています。
2019年の改正で、パワハラ防止のための義務が出来たことで、「パワハラ防止法」と呼ばれるようになりました。
パワハラ防止法が出来る前から、もちろんパワハラはいけないことでしたが、総合労働相談センターに寄せられるパワハラ関連の相談件数が年々増加していることから、この法律が誕生しました。
厚生労働省「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を元に作成
2020年は、総合労働相談コーナーへの相談は前年より減っています。
しかし、これはパワハラ防止法が大企業に適用され、管轄が変わったことによるものです。
パワハラ防止法での相談件数を足すと、10年前の倍以上の相談が寄せられていることになります。
パワハラの定義と種類
パワハラ防止法に対応するためには、まず「パワハラとは何か?」を知らなければなりません。
パワハラの定義
パワハラは以下のように定義付けされています。
- 優越的立場を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
この3点全てに当てはまるものが「パワハラ」です。
- 優越的立場というのは、上司や先輩に限りません。
例えば、後輩であっても専門知識や経験が豊富で、その人の協力がなければ業務がスムーズに進まない、といった場合にも当てはまります。
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうかは、その言動の目的、その時の状態、頻度やその人との関係性など色々な要素を考慮して総合的に判断されます。
- 就業環境が害されるかの判断は、その言動を受けた人が身体的または精神的に苦痛を与えられたことによって、平均的な労働者であれば就業する上で見過ごせない程度の影響だと感じるかどうか、が基準になります。
パワハラの種類
パワハラの種類は6つに分けられ、具体例が示されています。
パワハラの種類 | 該当する例 |
身体的な攻撃 | 物を投げる |
精神的な攻撃 | 大勢の前で何度も大声で𠮟責する |
人間関係からの切り離し | 同僚が集団で無視して孤立させる |
過大な要求 | 長時間、過酷な環境下で勤務に直接関係ない業務をさせる |
過小な要求 | 管理職の社員に嫌がらせで誰でも出来る業務をさせる |
個の侵害 | 病歴など個人情報を他の人に暴露する |
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
例:殴る蹴る、物を投げつける
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言)
例:大勢の前で威圧的な𠮟責を大声で何度もする
罵倒するような内容のメールを相手も含む複数人に宛てて送信する
- 人間関係の切り離し(隔離・仲間外し・無視)
例:集団で無視をして、相手を職場で孤立させる
仕事を外し、長時間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりする
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
例:長時間、肉体的に苦痛が伴う過酷な環境下で勤務に直接関係ない業務をさせる
新人に対して必要な教育を行わないまま高度な要求をして、達成できなかったことを厳しく叱責する
- 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
例:管理職の社員を退職させるために、誰でも出来る業務をさせる
気に入らない社員に嫌がらせで仕事を与えない
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
例:職場を離れても継続的に監視したり、私物を写真に撮ったりする
病歴や性的指向などの個人情報を相手の了解を得ずに周りに暴露する
以上がパワハラの種類とその典型的な例です。
実際には線引きが難しい事案も多く、場合によっては判断が異なる可能性もあり得ます。
会社側の義務と必要な措置
では、これらのパワハラを防止するために、どういった義務が課されているのでしょうか?
それは、パワハラ防止法の法第30条に示されていて、要約すると以下の2点です。
・ハラスメントに関する相談があった場合、必要な措置をとる
・相談者のプライバシーを守り、不利益な扱いをしてはいけない
この「必要な措置」は、4つあります。
必要な措置 | 対応 |
会社の方針の明確化とその周知・啓発 |
・パワハラの内容・パワハラを行ってはいけないという方針を明確化し、周知・啓発する ・行為者を厳正に対処するという方針や対処の内容を明文化し、社員に周知・啓発する |
相談に適切に対応するための体制の整備 |
・相談窓口を定め、社員に周知する ・相談窓口の担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにする |
パワハラに関わる事後の迅速・適切な対応 |
・事実関係を迅速かつ正確に確認する ・速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行う ・行為者に対する措置を適正に行う ・再発防止に向けた措置を講じる |
上記と併せて講ずべき措置 |
・相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を社員に周知する ・相談したこと等を理由に解雇など不利益な取扱いをされないことを定め、社員に周知・啓発する |
詳しく見ていきましょう。
① 会社の方針の明確化とその周知・啓発
対応1.パワハラの内容と職場で行ってはいけないという方針を明確にして、社員に周知・啓発すること。
対応2.パワハラを行った人に対して厳正に対処するという方針と対処の内容を就業規則などの服務規定を定めたものに規定して、社員に周知・啓発すること。
「明るい職場応援団」(厚生労働省運営)マニュアル策定モデル
② 相談に適切に対応するための体制の整備
対応1.相談に対応するための窓口を設置して、社員に周知すること。
窓口は社外の機関に委託しても構いません。
対応2.相談窓口の担当者は、相談内容に応じて適切に対応すること。
被害を受けた社員が相談することを躊躇しないように、窓口担当者が相談を受けた場合のマニュアルを策定したり、研修を受けるなどが有効です。
③ パワハラに関わる事後の迅速・適切な対応
対応1.パワハラに関する相談があった時は、その事実関係を迅速かつ正確に把握すること。
相談者とパワハラ行為者の両方から事情を聞くこと、またその際は、相談者の心身の状況も配慮しなければなりません。
もし、双方の主張に食い違う部分があったら、第三者からも聞き取りをするなど、事実関係の把握に努めてください。
対応2.パワハラがあったと確認できた場合には、被害者に対する適切な処置を速やかに行うこと。
メンタルヘルス不調への相談対応や加害者からの謝罪、加害者と引き離すための配置転換などが考えられます。
対応3. パワハラがあったと確認できた場合には、加害者に対する措置を適切に行うこと。
①の対応2で定めた内容に基づいて対処し、併せて、被害者との関係改善に向けての援助や被害者への謝罪、被害者と切り離すための配置転換などをすることが有効です。
対応4.改めて職場でのパワハラに関する方針を周知・啓発して、再発防止に向けた措置を講じること。
職場でパワハラを行ってはいけない旨と行為者に対して厳しく対処する旨を社内報や啓発のための資料で改めて社員に周知したり、社員に研修を行ったりすることが具体策として考えられます。
④ 上記①~③と併せて講ずべき措置
対応1.相談者と行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、相談への対応や事後の対応をする際は、双方のプライバシーを保護すること、またその旨を社員に周知すること。
プライバシー保護のために必要な措置としては、プライバシー保護のために必要な事項を定めて、窓口担当者はそれに基づいて対応したり、窓口担当者に必要な研修を行ったりすることが考えられます。
ここでいうプライバシーは、性的指向や性自認、病歴や不妊治療などといったものも含まれます。
対応2.パワハラの相談をしたことにより、解雇などの不当な取り扱いをしないこと。
この点も就業規則などに定めて、社員に周知・啓発する必要があります。
社員と会社を守るためにパワハラ対策を
今回はパワハラ防止法について紹介しました。
最初に述べたように、この法律に罰則はありませんが、パワハラ対策を後回しにしても良いことはありません。
パワハラを受けている社員の心身の状態は悪化し、生産性も落ちてしまいます。もし、業務がままならなくなったら、退職してしまうかもしれません。更に、パワハラを行った人だけでなく会社も管理を怠ったとして訴えられる可能性があります。そうなると、社会的にも金銭的にも大ダメージです。
また、会社の口コミサイトでも悪いコメントがついてしまえば、次の採用にも影響が出てしまいます。
先ほど、ご紹介した「明るい職場応援団」には、裁判事例の紹介や研修講座も開かれています。
過去の事例を学びつつ、社員を守るためにも、会社を守るためにもパワハラ対策をしっかり行いましょう!
VIPソフトウェア 中西樹