中小企業向け

労災事故の現状と企業に求められる対策(労務リスク編)

労務リスクの現状

労働法務分野において労働者を守るための法改正が進んでおり、労災事故の撲滅は施策となっています。

近年における法改正の動き
2006年4月施行 労働安全衛生法改正

長時間労働者に対する健康管理の義務化

2008年3月施行 労働契約法(新法)

安全配慮義務化の明文化(第5条)

2010年4月施行 労働基準法改正

長時間労働を抑制し、労働者の健康を確保

2015年12月施行 労働安全衛生法改正

ストレスチェック制度の創設

 

過労死リスク

安全配慮義務の強化に伴い過労や精神疾患を原因とする訴訟が増加し、賠償額も高額化しています。

昭和時代の高額判決10事例
約7,595万円 T鍛工所事件 昭和52年 砥石破損
約7,336万円 N電電事件 昭和52年 潜水病
約7,087万円 H市水道局事件 昭和56年 煉瓦塀倒壊
約7,057万円 D開発事件 昭和56年 スケール落下事件
約7,000万円 K建設事件 昭和55年 転落
約5,483万円 H建設事件 昭和62年 じん肺
約5,235万円 K巧業事件 昭和59年 H鋼から落下
約5,291万円 J建設事件 昭和54年 リフトから墜落
約5,000万円 S建設工業事件 昭和56年 屋根から墜落
約7,336万円 S鉄工事件 昭和57年 スレート踏み抜き
平成時代の高額判決10事例
約1億8,785万円 A鋼球製作所事件 平成20年 過労死
約1億8,000万円 K産業事件 平成22年 過労死
約1億6,524万円 S土木事件 平成6年 原木落下
約1億3,500万円 K医大事件 平成14年 過労死
約1億2,588万円 D広告事件 平成8年 過労死自殺
約1億1,111万円 Oソース事件 平成12年 過労死自殺
約1億700万円 O府立病院事件 平成19年 過労死
約1億398万円 O農協事件 平成21年 過労死自殺
約9,905万円 K電工事件 平成22年 過労死自殺
約9,280万円 I医療機器事件 平成24年 過労死

労働新聞社「安全スタッフ2014年5月1日」

新たな労災紛争の広がり

近年では、労働紛争を解決するためのさまざまな制度も整備されており、職場でのいじめ・嫌がらせなどのハラスメントに起因するトラブルや相談も増加傾向にあります。

民事上の個別労働紛争の相談内容別の件数推移

厚生労働省「平成28年度個別労働紛争解決制度施行状況」

労務リスクの対応策

現在、労務リスクの高まりを受け「企業防衛」と「福利厚生」の観点から、これらのリスクに備えることのできる損害保険の商品加入が全国的に進んでいます。

どんなリスクを補償できるか?
①法定外補償 従業員の業務中・通勤中の身体障害について従業員が法定補償を行うことによって生じる損害に対して、死亡・後遺障害・入通院・手術の保険金が支払われる
②使用者賠償責任補償 従業員の業務中・通勤中の身体障害について、企業や役員が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害の補償。
③雇用関連賠償責任補償 職場でのハラスメント等に対する管理責任や不当解雇等により企業、役員、管理職等が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害を補償。

 

労災上乗せ保険とは?

労災上乗せ保険とは、従業員が業務に関連してケガや病気になった場合に、政府労災で足りない分をカバーする、民間の損害保険です。

また、労務に関する様々な賠償リスクに備えられる手段、福利厚生を低コストで準備できる手段としても注目されています。

補償概要

従業員にはパート・アルバイトも含まれます。また個人事業主に業務委託をしている場合も実質的な指揮監督下であれば、対象になります。

補償内容は大きく分けて2つです。

  • 業務上の傷病の治療費等を労災に上乗せする。(法定外補償保険)
  • 損害賠償請求を受けるリスクから会社を守る。(使用者賠償責任補償保険)

この2つの補償は考え方が大きく異なります。

まずは、法定外補償保険は福利厚生としての役割が強くなっています。

最近では、精神疾患や業務外の病気まで厚くカバーするものもあります。

これに対し、使用者賠償責任補償保険は賠償のリスクに備えるものです。

従業員から高額な損賠賠償を請求されるケースに備えるものです。

労災の上乗せを組む際には、この2つを区別して考える必要があります。

福利厚生としての法定外補償保険

法定外補償保険とは、労災にプラスして企業が独自に従業員のために準備する補償を言います。福利厚生の一環です。

もう一つの補償「使用者賠償責任補償保険」をカバーする役割もあります。というのは使用者賠償責任補償保険は賠償金額が確定するまで保険金が支払われないからです。

それまでの間に従業員が入院や通院した場合の費用は、法定外補償保険でカバーすることができるのです。

また、従業員ではない経営者・役員は基本的に労災対象外ですので、経営者・役員が業務上のケガ・病気になった場合の労災の代わりとしての活用も考えられます。

法定外補償保険の基本的な補償内容の考え方

 

法定外補償保険の基本的な補償内容

・死亡/後遺症傷害保険(死亡は満額、後遺症は等級に応じる)

・入院給付金(日額)/通院給付金(日額)

いずれも、業務に関連したケガ・疾病が対象です。

このうち「死亡/後遺症傷害保険」は、すべての労災上乗せ保険で必ず設定しなければならない補償です。「使用者賠償責任補償保険」だけが目的で加入する場合でも、死亡・後遺障害の補償は必ず設定しなければなりません。

 

また、法定外補償保険は、福利厚生としての意味合いの他に、従業員やその遺族に賠償責任を負う場合の「使用者賠償責任補償保険」で損害賠償金が確定するまでの諸費用をカバーする役割もあります。

また、従業員が業務上のケガ・病気で仕事を休まなければならなくなった場合の休業損害補償もつけることができます。

事業主はその間も給与を払わなければなりませんので、その費用をカバーすることもできます。補償の上限は、対象者の給与の額までです。

賠償リスクに備える使用者賠償責任補償保険

使用者賠償責任補償保険は、業務上の事由による従業員のケガや病気のために、企業が法律上の賠償責任や訴訟費用を負担するときの補償です。

 

賠償リスクの増大・賠償金の高額化に備える

従業員が業務災害によってケガをしたり病気になったりした場合、企業は「安全配慮義務を怠った」や「労働環境整備が不十分だった」などの理由で従業員から賠償請求をされる例が増えています。

近年、会社側の責任が厳しく追及される傾向にあります。十分に配慮していたつもりでも、「不十分だった」とされてしまう可能性があります。

そうなると、本人や遺族から数千万~億単位の高額損害賠償請求をされることが考えられます。

特に最近、精神疾患や過労死・過労自殺が急増しています。賠償責任は高額化傾向にあります。そのような場合に賠償費用をカバーしてくれるのが「使用者賠償責任補償保険」です。

損害賠償金はもちろん、和解金、裁判費用もカバーしてもらえます。

ただし、保険金は賠償金額が確定するまで支払われません。それまでの間に医療費等がかかった場合に法定外補償保険でカバーすることできます。

「参考文献:保険の教科書より」