私達は仕事や日常生活の何気ない場面で様々な契約を結んで過ごしていますが、そこで自分が交わした契約の種類を把握しているでしょうか?
昨年2020年4月から施行されている改正民法は、なんと約120年振りの改正で、契約についての規定にも変更がありました。(民法の一部を改正する法律(債権法改正)について)
そこで、今回は民法で規定されている契約の種類について、改正のポイントも含めてご説明していきます。
典型契約と非典型契約
契約には大きく分けて2種類あります。
典型契約…民法で定められている13種類の契約です。「有名契約」とも言います。
非典型契約…典型契約以外の契約です。フランチャイズ契約や秘密保持契約、労働者派遣契約などがあります。主に新しいビジネスモデルで交わされる契約です。
民法典に記載されている型の契約なので「典型契約」、民法典で記載されていない型の契約なので「非典型契約」とわかりやすいです。
非典型契約は、典型契約が「有名契約」と呼ばれるのに対応して「無名契約」と呼ばれることもあります。
典型契約以外の契約は全て非典型契約に当たり、数が多くとても紹介しきれませんので、次から典型契約の種類をご紹介していきます。
典型契約の種類
13種類の契約も性質によって大きく4つに分類されます。契約の内容に併せて、改正による変更点でチェックすべきポイントもご説明します。
①労務の提供
まずは働く上で最も馴染みがある労務の提供に関する契約です。
雇用
当事者の一方が働き、もう一方がその労働に対して報酬を支払う契約です。
雇用契約は、働く側の労働者と報酬を支払う側の雇用主の信頼関係に基づいています。
雇用主は労働者に対して指揮命令権を持ちますが、労働者の権利は労働基準法によって守られています。
一般的に会社員と会社が結んでいる契約が、この雇用契約です。
①契約が途中で終了した場合でも、労働者は既に履行した業務の割合に応じた報酬を請求出来ることが明文化されました。
②労働者側から雇用契約を解除する場合は、2週間前までに予告すれば良いことになりました。
請負
当事者の一方がある仕事を完成させることを約束して、もう一方がその仕事の成果物に対して報酬を支払う契約です。
特約がない限り仕事を完成させる側である請負人は、報酬を支払う側である注文者の許可なしでも仕事を第三者に行わせることが出来ます。
これは雇用契約とは違い、仕事の完成が目的とされた契約だからです。
①以下のどちらかの場合、請負人は仕事が完成していなくても注文者の利益の割合に応じて報酬を請求出来るようになりました。
・完成出来ない原因が注文者にない
・完成前に契約を解除された
②請負人の責任が「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」になり、以下の4つの請求が可能です。
・追完請求…不具合がある部分の修理
・損害賠償請求
・契約解除
・報酬減額請求
※契約不適合責任…仕事の内容に不備があった場合に請負人が注文者に対して負う責任です。
※責任を追及するには契約不適合を知ってから1年以内に請負人に通知する必要があります。
「当事者間で契約内容に対する同意があったかどうか」が契約不適合責任のキーとなります。
契約書には「契約の目的」という項目を加えるなど、契約を結ぶことになった背景や経緯を明記しましょう!
委任・準委任
どちらも専門家に仕事を任せる契約です。
委任契約は当事者の一方が法律行為を委託して、もう一方がそれを承諾する契約です。
弁護士や税理士への依頼が委任契約に当たります。
準委任契約は法律行為以外を委託する契約です。
医者にかかって治療を受ける行為などが該当します。
①委託された側の受任者は、以下のどちらかの要件で、第三者でもその仕事を行うことが出来るようになりました。
・仕事を委託した委任者の許可を得た時
・やむを得ない理由がある時
②仕事が完遂出来なくなった場合でも、成果に応じた報酬請求が出来るようになりました。(成果報酬型の新設)
報酬請求は任意規定なので、契約が途中で終了した場合の報酬請求の可否や支払い時期を明記しましょう!
②財産権の譲渡
日常生活でよく行われているので、こちらも馴染みがある契約です。
売買
当事者の一方が物を売り、一方がお金で買うことで、その物の財産権が買い主に譲渡される契約です。
スーパーでの買い物や不動産の購入など、金額の大小は関係なく、この売買契約に当たります。
①売り主の責任が、請負契約と同じく「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」になり、以下の4つの請求が可能です。
・追完請求…修補・代替物の引渡・不足分の引渡
・損害賠償請求
・契約解除…買戻しの金額は当事者間での合意があれば、買い主が支払った金額ではなくても良くなりました。
・代金減額請求
※責任を追及するには契約不適合を知ってから1年以内に請負人に通知する必要があります。
請負契約と同じく、契約書には「契約の目的」という項目を加えるなど、契約を結ぶことになった背景や経緯を明記しましょう!
交換
当事者間で金銭以外の財産権を譲渡する契約です。
平たく言うと「物々交換」のことです。
実務で多く交わされる契約ではなく、民法の改正もありませんでした。
贈与
当事者の一方が無償で自分の財産を相手方に渡す契約です。
典型的な贈与契約の例として、プレゼントが挙げられます。
売買契約と違い、譲渡する側が譲渡物に対して責任を負うことはありませんが、「引渡義務」が規定されました。
実務への影響は殆どありません。
③貸し借り
貸し借りに関する契約も3種類あります。
消費貸借
当事者の一方が相手方から何かを借りて消費し、相手方に同額か同等の何かを返す契約のことです。
代表例はお金の貸し借りですが、住宅ローンや金融機関の融資など所謂「借金」は消費貸借契約の一種で正式には「金銭消費貸借契約」といいます。
今までは要物契約のみが認められていましたが、当事者間の合意のみで消費貸借契約の成立が認められるようになりました。(諾成的消費貸借契約)
※要物契約…金銭等の引き渡しがあって成立する契約
※諾成契約…当事者間の合意(申し込みと承諾)で成立する契約
判例では以前から諾成契約が認められていて、それを今回の改正で民法に反映させた形なので、実務上は大きな影響はありません。
使用貸借
当事者の一方が無償で何かを借りて使用した後で、貸した側(貸主)に返す契約です。
日常生活だと自転車の貸し借りが該当しますが、事業では土地や設備の貸し借りも無償であれば、この使用貸借契約に当たります。
①消費貸借と同様に、今までは要物契約のみが認められていましたが、諾成契約が認められるようになりました。
②借りた側である借主は通常損耗や経年劣化を含め、原状回復義務を負います。貸主負担で原状回復するのであれば、使用貸借契約書にその旨を明記する必要があります。
賃貸借
当事者の一方が相手方にお金を払って何かを借りる契約です。
CDレンタルやレンタサイクルなどのレンタル業が賃貸借契約に該当します。
①賃貸借の存続期間の上限が50年になりました。
②借りる側である賃借人の原状回復義務に通常損耗や経年劣化が含まれないことが明文化されました。
その他にも賃貸借契約に関しては改正が多くありましたが、殆どが判例を基に共通認識を明文化させたものなので、実務上の大きな変化はないでしょう。
④その他
今までご紹介した契約以外にも4種類の契約が民法で定められています。
寄託
当事者の一方が相手方から物を預かり保管する契約です。
身近な例では、ロッカーに荷物を預けることや銀行にお金を預ける「預金」も寄託契約に該当します。
要物契約から諾成契約になりました。
組合
複数の契約当事者が出資をして、共同で事業を営む契約です。
身近な例では、商店街の振興組合やマンションの管理組合が挙げられます。
労働組合や信用組合は、「組合」という名称でも民法以外の法律に基づいている場合があります。
出資の内容には特に制限がないので、お金だけでなく物でも労務でも問題ありません。
組合契約にも改正はありましたが、共通認識を明文化する程度で、実務に影響はないでしょう。
和解
当事者がお互いに譲歩して、争いを終わらせる契約です。
事故などの示談が和解契約の典型例です。
改正による変更はありませんでした。
終身定期金
当事者の一方が、自分または相手方、第三者が死亡するまで定期的にお金や物を相手方または第三者に給付する契約です。
イメージとしては年金のようなものですが、公的年金も私的年金も他の法律が適用されていて、実際に民法上の終身定期金契約が結ばれることは滅多にありません。
和解契約と同様に、改正による変更はありませんでした。
典型契約の種類と改正のポイントまとめ
今回は、典型契約の種類についてご説明してきました。
これから結ぼうとしている契約は典型契約なのか、13種類のうちのどの契約に該当するのかを意識出来ているだけでトラブル回避に役立ちます。
実際に契約を結ぶ際には、その内容に関する特別法があれば、そちらが優先して適用されます。特別法にも注意が必要になりますが、まずは基本の典型契約を押さえることが大切です。
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